どうしたら相続開始とみなされるのか?〜相続の知識編〜
相続円満相談室からお客様への知識として、正しい知識をお伝えさせていただきます。
【相続の単純承認ー個別的・具体的な資格取得】
相続の承認の種類には
(単純承認)
・私は相続しますという承認の場合
(法定単純承認)
・ある一定の法律行為や事実があれば承認したものとして扱われる場合
相続人の資格面から見ると、「相続資格の取得」ということになり、通常は前者の例はなく、ほとんどは後者の例なんです。
(1) 単純承認とは
相続人が被相続人の権利義務を全面的に承継することを内容として相続を承認する意思表示です。この意思表示は、放棄や限定承認と全然違っていて手続を必要しません。
すなわち、単純承認という特別の手続や行為は必要とされません。そもそも制度上そのような手続も設けられていないんです。
つまり、単純承認は単純なんです。
この単純承認は、「相続人は無限定に被相続人の権利義務を承継するので、相続財産は相続人の固有財産と完全に融合してしまいます。
その結果、相続人は、被相続人の借金全額についてプラスの財産の多い少ないにかかわらずその全部を弁済しなければならなくなり、 相続人の債権者は、相続人の固有財産に対しても強制執行できることになります。
ただし、金銭債務は分割単独債務であるから、相続人各人の責任限度は法定相続分までとなります。
(2) 法定単純承認
民法では、相続人が単純承認の意思表示をしなかったとしても、一定の事由があった場合には、当然に単純承認したものとみなすことを規定しています。
この制度を「法定単純承認」といいます。
以下の3つの事由が定められています。
単純承認されると、相続人には被相続人の債務や責任を包括的に承継するという重大な効果がもたらされます。
(a)相続財産の処分
経済的価値の高い美術品やその他の動産の形見分けを受け取ったり、相続債務の代物弁済として相続財産たる不動産を譲り渡したり、また相続する債権 (例えば売掛債権など)を取り立てて収受したりすることは、相続財産の処分にあたります。
この処分には、法律行為のみならず、家屋を放火し、あるいは損壊するなどの事実行為も含まれます。
相続財産の処分は、単純承認があったとするのに相応しいものでなければなりません。
そのため、相続人が被相続人の死亡事実を知らないで相続財産を処分した場合には、単純承認の効果は生じないとされます。
相続人は、相続の承認や放棄をするまでは、相続財産の管理人的地位に置かれます。したがって、建物の応急修理などの保存行為や短期賃貸借契約の締結(土地は5年、建物3年)は当該管理行為にあたり処分から除かれます。
その他 、一般に軽徴な慣習上の形見分けや葬式費用の支出なども処分に含まれないと解されています。
判例では、1号の「処分」があったことにより、単純承認する意思が黙示的に表示されたと捉えられています。
その趣旨は2つあります 。
1つ目は、そもそも被相続人の財産が自己の財産になってはじめて、相続人は相続財産を処分できる権利を得るのだから、処分があったなら相続人が何も言わなくても単純承認をしたと推定できるんじゃないか。
単純承認の効果として承継されるものは権利だけじゃなく、義務・責任をも負わせないといけないということだからです。
2つ目は、相続人が相続財産を処分した後に限定承認や放棄をすると、相続財産の価値は減少し範囲も不明確になってしまいます。相続 権者の利益が害されることを防ぐために、単純承認をしたとみなすのが最善とされているからです。
【事例ー被相続人の死亡を知らないでした処分行為】
被相続人Hは、借金苦から家出しその日のうちに自殺していました。子Aはその事実を知らないまま、Hの家出の半年後に、有料駐車場を解約明渡しするために、H名義の中古自動車を第三者に売却しました。その後、Hが失踪当日にすでに死亡していた事実が判明しました。Hには多額の借金があるんですがAは相続を放棄したいと考えるができるでしょうか?
【答え】
Aが行ったHの中古自動車の売却は、Hが死亡したことを知らないでしたものですから。相続財産の処分とはならないので、単純承認したとは言えず、債務超過を理由に相続を放棄することができます。
【事例ー非難可能性のない処分行為】
被相続人の妻Wは、夫が出張先のある国で海難事故に遭遇したと知らせが来て、H名義の預金200万円を引き出して、現地に向かう旅費に使った。 現地に到着してからHは海上で死体となって発見されました。このとき、Wは単純承認したことになるでしょうか?
【答え】
Wが夫名義の預金200万円を引き出したのは、Hの難を知って現地に行くためであり。日の死体が発見される前の行為です。また、相続開始の事実を分かっていたわけでもないので、Wの預金の引出しは相続財産の処分にはなりません。
仮にこのような場面で、死亡の通知を受けてから旅費にあてるために預金を引き出したとしても、そのことをもって直ちに単純承認があったとするにはふさわしくない典型的な事案です。
【事例ー死亡保険金の受領】
被相続人は妻Wを受取人とする生命保険をかけていました。H死亡の直後、 Wはその保険金を受領し、その金員によって家具を購入しました。その後、Hには多額の連帯保証債務があることがわかったので、Wは相続の放棄をしようと考えたが、可能でしょうか?
【答え】
単純承認が擬制される処分の対象は相財産である。妻Wを受取人とする生命保険金は、保険契約の効力発生と同時にW自身の固有財産となり、Hの相続財産ではありません。
よって、生命保険金による家具の購入はW自身の固有財産によるものとなり、相続財産の処分にはあたりません。Wは相続の放棄をすることができます。
【事例ー非難可能性のない処分行為】
被相続人の妻Wは、夫が出張先の某国で海難事故に遭遇したとの知らせを受け、H名義の預金200万円を引き出して、現地に向かう旅費に使いました。 現地に到着してからHは海上で死体となって発見されました。このとき、Wは単純承認したことになるでしょうか?
【答え】
Wが夫名義の預金200万円を引き出したのは、Hの事故を知って現地に赴 く ためであり、Hの死体が発見される前の行為です。また、相続開始の事 実を確実視していたわけでもないので、Wの預金の引出しは相続財産の処分にはなりません。
仮にこのような場面で、死亡の通知を受けてから旅費にあてるために預金を引き出したとしても、そのことをもって直ちに単純承認があったとするにはふさわしくないと思われます。
【事例ー死亡保険金の受領】
被相続人は妻Wを受取人とする生命保険をかけていた。H死亡の直後、Wはその保険金を受領し、その金員によって家具を購入しました。 その後、Hには多額の連帯保証債務があることがわかったので、Wは相続の放棄をしようと考えたのだけど、可能でしょうか?
【答え】
単純承認がされる処分の対象は相続財産です。妻Wを受取人とする 生命保険金は、保険契約の効力発生と同時にW自身の固有財産となり、Hの相続財産でありません。
よって、生命保険金による家具の購入はW自身の固有財産によるものとなり、相続財産の処分にはあたりません。だからWは相続の放棄をすることができます。
【熟慮期間経過について】
単純承認が擬制される最も一般的なケースは、相続人が限定承認も放棄もしないうちに熟慮期間が経過することです。
相続人は単純承認という特別の行為をするわけではありません。
問題となるのは、未成年者である相続人に法定代理人がいない場合です。
この場合の熟慮期間の起算点は、先述のとおり、未成年者に後見人などの法定代理人が置かれ、この法定代理人が相続開始を知った時からと理解するべきです。
成年被後見人について後見人が欠けている場合も同様です。
【背信的な行為】
相続人が限定承認又は放棄の趣旨や義務に反する背信的行為を行ったときにも、単純承認が行われます。その趣旨は、背信的行為を行った相続人にはもはや限定承認・放棄の利益を享受 させる必要はなく、いわば制裁として単純承認の効果、とくに義務を負わせるのを相当としたんです。
民法 921条1 号の処分が限定承認 ・放棄をする前の行為を想定しているのに対し、 同条3号の背信的行為は限定承認・放棄をした後の行為を規定しています。
背信的行為とされるのは
・相続財産の「隠匿」
・相続財産を「私(ひ そか)に消費」する。
・相統財産を悪意で目録中に記載しない
の3つです。
「隠匿」とは、容易にその遺産の存在をわからないようにしてしまうことであり、「私に消費」するとは、相続債権者の不利益になることを承知のうえで、相続財産を消費することです。
「悪意の不登載」は、限定承認後の 相続人が相続債権者を詐害しようとする財産隠匿の意思をもって財産目録に記載しないことであり、積極財産を隠すために書かなかった場合だけでなく、債務(消極財産)を意図的に隠すために書か なかった場合も含まれます。
【事例ー相続放棄後における遺産の隠匿行為】
被相続人の相続人は、子はA1人です。Hには3000万円の借金 があったので、Aは債務超過を理由に相続の放棄をしました。次順位相続人はHの妹Sです。SがHの相続について承認 も放棄もしない間に、AはHの預金100万円を着服しました。このとき、Aの隠匿行為は次順位の相続人S の立場に 影響を及ぼすでしょうか?
【答え】
民法921条3号ただし書は、「その相続人が相続の放棄をしたことによって 相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない」と規定しています。これは、相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった次順位の者が相続の承認をした後は、もはや相続放棄をした当初の相続人が背信的行為を行っても、単純承認の擬制は適用されないことを意味します。
次順位相続人の利益保護のために、当初の相続人の放棄はそのまま効力を維持し、次 順位の相続を有効とする扱いです。
相続を承認した次順位の相続人は、相続を放棄した当初の相続人の背信的行為に対して、財産の引渡しあるいは損害の賠償を請求できます。結果的に、 責任追及の主体を相続権者ではなく次順位の相続人にさせるのが適当との
調整規定です。
設例のケースは、次順位の相続人Sが相続の承認も放棄もしていない段階であり、この3号ただし書には該当しません 。したがって、当初の相続人Aが原則どおり単純承認をしたものとみなされ、3000万円の借金を承継すること となり、結果的にS は相続人とはならないことになります。
【事例ー次順位相人が限定承認 をした後の隠匿行為】
前記【事例ー相続放棄後における遺産の隠匿行為】において、Sが限定承認の申述をした後にAの隠匿行為があった場合はどうか。
Aの相続放棄によって新たに相続人となったSが限定承認をし、その後にAが隠匿行為をした場合である。これはまさに民法921条3 号ただし書に該当するケースです。
Aの相続放棄はそのまま効力が維持され、Sの次順位の相続資格もAの隠匿行為により影響を受けることはありません。したがって、Sによる限定承認の申述は有効となり、相続権者に対してはSが責任を負うこととなります。
一方、SはAに対し、その隠匿行為の責任を追及することができます。ただし、Aが無資力の場合には、そのリスクはS が負担することとならざるを得なくなるので注意してください。
今日はここまで!
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