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認知症の配偶者がいる家庭の相続対策|公正証書遺言と生前贈与を組み合わせた事例

認知症の配偶者がいる家庭の相続対策|公正証書遺言と生前贈与を組み合わせた事例

先日、父親、認知症の母親、息子さん一人というご家族の公正証書遺言作成をお手伝いしました。

公証人と証人2名の立会いのもと、父親ご本人の意思を確認し、無事に公正証書遺言が完成しました。

今回の相続対策の大きな目的は、父親が先に亡くなったときに、認知症の母親が多くの財産を相続することで、家族が財産管理に困らないようにすることでした。

認知症の配偶者がいる家庭では、単に法定相続分どおりに相続させることが、必ずしも家族にとって最善とは限りません。


遺言書がなければ、母親と息子で遺産分割協議が必要になる

父親が亡くなり、相続人が母親と息子一人の場合、法定相続分は原則として次のとおりです。

  • 母親 2分の1
  • 息子 2分の1

しかし、法定相続分は「必ずその割合で分けなければならない」という意味ではありません。

相続人全員で遺産分割協議がまとまれば、異なる割合で分けることもできます。

問題は、母親の認知症が進み、遺産分割協議の内容を理解して判断できない場合です。

この場合、母親に代わって息子が勝手に遺産分割協議へ署名することはできません。

原則として成年後見人等の選任が必要になり、息子自身も相続人であるため、利益相反の問題から特別代理人等の検討が必要になることもあります。

一度成年後見制度が始まると、父親の相続手続きが終わっただけで終了するとは限りません。

母親が亡くなるまで、財産管理や家庭裁判所への報告が続く可能性があります。


公正証書遺言で息子へ財産を承継させる

今回のご家族では、父親が元気で判断能力のあるうちに、公正証書遺言を作成しました。

遺言によって財産の承継先を具体的に決めておけば、父親の死亡後、原則として母親を含めた遺産分割協議を行わずに相続手続きを進められます。

公正証書遺言は、遺言者が公証人と証人2名の前で遺言内容を伝え、公証人が遺言者の真意と判断能力を確認して作成します。原本は公証役場で保管され、家庭裁判所の検認も不要です。

今回も、父親ご本人が財産の内容や遺言の意味を理解していることを、公証人が直接確認したうえで作成されました。

家族が希望しているだけでは、公正証書遺言は作れません。

あくまで遺言をする父親本人の意思が中心です。


不動産は相続時精算課税制度を利用して生前贈与

今回の対策では、公正証書遺言だけでなく、父親名義の不動産を息子へ生前贈与しました。

贈与税については、相続時精算課税制度を選択しています。

相続時精算課税制度は、一定の要件を満たす父母や祖父母から、子や孫へ財産を贈与する場合に選択できる制度です。

令和6年1月1日以後の贈与では、年間110万円の基礎控除が設けられています。さらに、基礎控除後の金額について、累計2,500万円までの特別控除を利用できます。特別控除を超えた部分には、一律20%の贈与税がかかります。

ただし、相続時精算課税は「贈与すれば相続税がかからなくなる制度」ではありません。

父親が亡くなったときには、原則として贈与財産を相続税の計算へ加えて精算します。

今回この制度を使った主な目的は、単なる節税ではなく、父親が元気なうちに不動産の所有者を息子へ移し、将来の管理や処分をしやすくすることでした。


なぜ遺言だけでなく生前贈与も行ったのか

公正証書遺言があれば、父親の死亡後に不動産を息子へ相続させることは可能です。

それでも生前贈与を選んだのは、相続発生後の不確実性を減らすためです。

父親が亡くなった後では、

  • 遺言の内容をめぐる家族間の意見
  • 遺留分の問題
  • 相続税の申告
  • 不動産の管理や売却
  • 母親の介護費用の確保

などを同時に考えなければなりません。

父親が判断できるうちに不動産の承継を済ませることで、誰が管理するのか、今後どう活用するのかを明確にできます。

ただし、不動産の生前贈与には、贈与税だけでなく、登録免許税、不動産取得税、司法書士費用などもかかります。

相続による取得より税負担が高くなることもあるため、すべての家庭に適する方法ではありません。


「母親に財産を渡さない」だけでは危険

今回の対策で最も注意したのは、認知症の母親の生活を守ることです。

認知症だからという理由だけで、母親の取得分をゼロにすればよいわけではありません。

母親には今後、

  • 生活費
  • 医療費
  • 介護施設費
  • 自宅の維持費
  • 葬儀や身の回りの費用

が必要になります。

息子へ財産を集めても、息子がその財産から母親の生活を確実に支えなければ、対策としては不十分です。

遺言書では財産の承継先だけでなく、母親の生活費をどのように確保するかまで考える必要があります。

例えば、預貯金の一部を母親へ相続させる、息子が母親の生活費を負担することを家族間で確認する、生命保険や家族信託を組み合わせるなどの方法があります。


配偶者には遺留分がある

公正証書遺言を作成しても、配偶者の権利を完全に消せるわけではありません。

配偶者には遺留分があります。

相続人が母親と息子一人の場合、母親の法定相続分は2分の1です。その半分に相当する、遺産全体の4分の1が母親の遺留分となるのが原則です。

母親本人に判断能力がなければ、成年後見人等が母親のために遺留分侵害額請求を検討する可能性もあります。

また、息子へ行った生前贈与も、その時期や目的、当事者双方の認識などによっては、遺留分を計算する際の基礎財産に含まれる可能性があります。

そのため、

「生前贈与しておけば、配偶者の遺留分から外せる」

とは限りません。

公正証書遺言、生前贈与、相続税、遺留分は、それぞれ別のルールで動きます。

一つの制度だけを見て判断するのは危険です。


相続時精算課税を選択する前の注意点

相続時精算課税制度は、一度選択すると、原則として同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことができません。

また、不動産の価値が将来下落しても、相続税の計算では原則として贈与時の価額を基に計算されます。

反対に、将来値上がりする不動産であれば、贈与後の値上がり部分を相続税の対象から切り離せる可能性があります。

選択時には、少なくとも次の点を比較すべきです。

  • 不動産の現在の評価額
  • 将来の値上がり・値下がりの可能性
  • 贈与税と相続税
  • 登録免許税と不動産取得税
  • 贈与者の生活資金
  • 受贈者が不動産を管理できるか
  • 配偶者の遺留分
  • 将来売却した場合の譲渡所得税

節税額だけで判断すると、かえって家族全体の負担が増えることがあります。


認知症になる前でなければできない対策がある

相続対策で最も重要なのは、財産額よりも本人の判断能力です。

父親が認知症などにより遺言内容を理解できなくなれば、有効な遺言書を新たに作ることはできません。

不動産の生前贈与も契約ですから、贈与者本人に契約内容を理解できる判断能力が必要です。

「もう少し先で考えよう」と家族が先延ばしにしている間に、選べる対策がなくなることがあります。

今回のご家族は、父親が自分の意思を明確に伝えられる段階で相談に来られました。

そのため、

  • 公正証書遺言
  • 不動産の生前贈与
  • 相続時精算課税制度
  • 母親の生活資金の確保
  • 将来の不動産管理

を一つの計画として考えることができました。


まとめ|相続対策は「誰に渡すか」だけではない

認知症の配偶者がいる家庭では、法定相続分どおりに財産を取得させることで、不動産や預貯金の管理が難しくなる場合があります。

その対策として、公正証書遺言や生前贈与は有効な選択肢になります。

しかし、重要なのは単に母親の相続分を減らすことではありません。

  • 母親の生活と介護をどう守るか
  • 誰が不動産を管理するか
  • 成年後見制度が必要になる可能性
  • 配偶者の遺留分
  • 贈与税、相続税、登記費用
  • 二次相続まで含めた家族全体の負担

を一緒に考える必要があります。

公正証書遺言を一通作れば、すべてが解決するわけではありません。

また、相続時精算課税制度を利用すれば、必ず節税になるわけでもありません。

それぞれの家庭の財産、家族関係、健康状態、介護方針を確認し、相続後に家族が困らない形を作ることが、本当の相続対策だと考えています。

※本記事は、ご本人の特定につながらないよう、家族構成や財産内容の一部を一般化しています。また、相続時精算課税、遺留分、生前贈与の取扱いは個別事情によって異なります。実行前に税理士、司法書士、行政書士、弁護士など各分野の専門家へ確認してください。

認知症の配偶者がいる家庭の相続対策|公正証書遺言と生前贈与を組み合わせた事例

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